December 15, 2025

米国ワイン産地のA.V.Aシステムを徹底解説


米国ワインを理解する上で欠かせないのが、A.V.A(American Viticultural Area)システムです。今回は、このA.V.Aの仕組みと、主要な産地・サブリージョンについて詳しく解説します。

A.V.Aとは?

American Viticultural Area(アメリカン・ヴィティカルチュラル・エリア) は、米国におけるワイン用ブドウ栽培地域の公式な原産地呼称です。フランスのAOCやイタリアのDOCGと似た役割を果たしますが、いくつかの重要な違いがあります。

A.V.Aの特徴

  • 地域の明確な区分: 地理的・気候的特徴に基づいて区分されます
  • 原料の原産地保証: ワインのラベルにA.V.Aを記載する場合、最低85%のブドウがその地域で栽培されている必要があります
  • 品種・製法の自由度: ヨーロッパの原産地呼称と異なり、栽培品種や醸造方法は規定されません。産地のアイデンティティを重視しています

2025年現在、34州に277のA.V.Aが認定されており、カリフォルニア州が最多で154のA.V.Aを擁しています。

Point Summary

ここがポイント!

  • A.V.Aは地理・気候的特徴で区分される原産地呼称
  • ラベルに記載する場合、最低85%がその地域のブドウ
  • 277のA.V.Aが34州に存在(カリフォルニアが154で最多)

カリフォルニアの主要A.V.A

カリフォルニアは世界第4位のワイン生産地域で、610,000エーカーの栽培面積に100種類のブドウ品種が栽培されています。

1. ナパバレー(Napa Valley)

ナパバレーは米国を代表するプレミアムワイン産地で、17のサブA.V.A(ネステッドA.V.A) を持つ複雑な産地構造を誇ります。

主要なサブA.V.A

プレミアム・カベルネ産地

  • オークヴィル(Oakville): ナパで最も名声の高いサブリージョンの一つ。力強くエレガントなカベルネ・ソーヴィニヨンで知られる
  • ラザフォード(Rutherford): 「ラザフォード・ダスト」と呼ばれる独特の土壌由来の味わいが特徴
  • スタッグス・リープ・ディストリクト(Stags Leap District): 絹のようになめらかなカベルネで有名

標高の高い山岳地帯

  • ハウエル・マウンテン(Howell Mountain): ナパ初のサブA.V.A(1983年認定)。力強い凝縮感のあるワイン
  • ダイアモンド・マウンテン・ディストリクト(Diamond Mountain District): 火山性土壌が特徴
  • スプリング・マウンテン・ディストリクト(Spring Mountain District): 標高が高く、冷涼な気候
  • マウント・ヴィーダー(Mount Veeder): 険しい斜面で少量生産

その他の注目サブA.V.A

  • ロス・カーネロス(Los Carneros): ナパとソノマにまたがる冷涼産地。ピノ・ノワールとシャルドネ、スパークリングワインの名産地
  • ヨントヴィル(Yountville): バランスの取れたカベルネ・ソーヴィニヨン
  • セント・ヘレナ(St. Helena): 歴史的なワイナリーが多数
  • カリストガ(Calistoga): バレー最北部の温暖な産地
  • クームズヴィル(Coombsville): 2011年認定の比較的新しいA.V.A
  • クリスタル・スプリングス(Crystal Springs): ナパ最新のA.V.A。ヴァカ山脈の西斜面、約4,000エーカーの丘陵地

2. ソノマ(Sonoma County)

ソノマは13のA.V.Aを持ち、500以上のワイナリーが存在します。ナパより冷涼で、ピノ・ノワールが主要品種です。

主要A.V.A

  • ロシアン・リバー・バレー(Russian River Valley): カリフォルニア最高峰のピノ・ノワールとシャルドネの産地。冷涼な海洋性気候が特徴
  • アレクサンダー・バレー(Alexander Valley): カベルネ・ソーヴィニヨンとメルローの産地
  • ドライ・クリーク・バレー(Dry Creek Valley): ジンファンデルの名産地
  • チョーク・ヒル(Chalk Hill): 白亜質土壌が名前の由来
  • ナイツ・バレー(Knights Valley): ナパとの境界に位置し、カベルネ・ソーヴィニヨンで有名

3. パソ・ロブレス(Paso Robles)

パソ・ロブレスは11のA.V.Aを持つ、カリフォルニアで最も多様性に富んだ産地の一つです。

特徴

  • 総面積: 609,673エーカー(栽培面積は約18,500エーカー)
  • 栽培品種: 60種類以上のブドウ品種が栽培される
  • 主要品種: ジンファンデル(伝統品種)、カベルネ・ソーヴィニヨン、ローヌ品種(シラー、グルナッシュ、ムールヴェードル)
  • 気候: 多様なミクロクリマと土壌の組み合わせ

2025年のヴィンテージは、近年の極端な気候変動から一転して「穏やかな年」と評され、収穫量も正常レベルに戻りました。

Point Summary

ここがポイント!

  • ナパバレー:17のサブA.V.A、カベルネの聖地
  • ソノマ:13のA.V.A、ピノ・ノワールとジンファンデル
  • パソ・ロブレス:11のA.V.A、60種類以上の品種を栽培

A.V.Aシステムの管理

2003年1月、国土安全保障法に基づいて**TTB(Alcohol and Tobacco Tax and Trade Bureau)**が設立され、A.V.Aの認定とワインのラベル表示を監督しています。

A.V.Aの認定プロセス

新しいA.V.Aの認定には、以下の要素が考慮されます:

  • 地理的境界の明確さ
  • 気候的特徴の独自性
  • 土壌の特性
  • 歴史的・地理的証拠

カリフォルニア以外の主要ワイン産地

ワシントン州

ワシントン州は米国第2位のワイン生産州で、2024年にBeverly AVAが最新のA.V.Aとして追加されました。

コロンビア・バレー(Columbia Valley AVA)

ワシントン州最大のワイン産地で、約1,100万エーカー(州の面積の約3分の1)を占め、ワシントン州のワイン用ブドウの99% がこの地域で栽培されています。

主要なサブA.V.Aには以下が含まれます:

  • Walla Walla Valley
  • Horse Heaven Hills
  • Red Mountain
  • Wahluke Slope
  • Yakima Valley
  • Rattlesnake Hills
  • Snipes Mountain
  • Lake Chelan
  • Naches Heights
  • Ancient Lakes of the Columbia Valley
  • Candy Mountain
  • Goose Gap
  • The Rocks District of Milton-Freewater
  • Rocky Reach
  • Rocky Slope
  • The Burn of Columbia Valley

ヤキマ・バレー(Yakima Valley AVA)

1983年4月3日に認定されたワシントン州初のA.V.Aで、現在は53,000エーカー以上を栽培し、州内で最も高い濃度のワイナリーとブドウ畑を有しています。

2024年7月には、USA Todayの読者投票で米国ベスト・ワイン・リージョンに選ばれました。

4つのサブA.V.A

  • Red Mountain
  • Snipes Mountain
  • Rattlesnake Hills
  • Candy Mountain

主要品種: シャルドネ、リースリング、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、ピノ・グリ、シラー

オレゴン州

オレゴンはピノ・ノワールの聖地として世界的に認知されており、約700のワイナリーが存在します。

ウィラメット・バレー(Willamette Valley)

オレゴン最大のワイン産地で、11のサブA.V.Aを持ちます。27,200エーカーの栽培面積のうち、70%がピノ・ノワールに植えられています。

11のサブA.V.A

  • Chehalem Mountains
  • Dundee Hills
  • Eola-Amity Hills
  • Laurelwood District
  • Lower Long Tom
  • McMinnville
  • Mount Pisgah
  • Polk County(2022年認定、オレゴン最新のA.V.A)
  • Ribbon Ridge
  • Tualatin Hills
  • Van Duzer Corridor
  • Yamhill-Carlton

2025年の気候変動

2025年は西部米国で記録的な温暖年の一つとなり、多くのブドウ畑でこれまでより早い収穫が行われました。専門家によると、ブドウの成熟が10年ごとに約3日早まっており、収穫時期が以前より3週間早くなっています。

この温暖化により、冷涼気候を好むピノ・ノワールの将来について懸念が高まっており、より温暖な気候に適した品種の栽培も推奨されています。

ニューヨーク州

ニューヨーク州は6つのワイン生産地域11のA.V.Aを持ち、歴史と革新が融合した産地です。

フィンガー・レイクス(Finger Lakes AVA)

2025年のWine Enthusiast’s Wine Star Awardアメリカン・ワイン・リージョン・オブ・ザ・イヤーに選ばれ、大きな注目を集めています。

特徴

  • 11の深い氷河湖が生み出す独特のミクロクリマ
  • 10,000エーカー以上の栽培面積
  • 140以上のワイナリー
  • 1982年にA.V.A認定

主要品種: リースリング、シャルドネ、カベルネ・フラン、スパークリングワイン用品種

Finger Lakesは、米国におけるリースリングとスパークリングワインの名産地として長い歴史を持ち、冷涼な気候がゆっくりとバランスの取れた成熟を可能にしています。

ハドソン・バレー(Hudson Valley)

米国最古のワイナリー地域の一つで、U.S. Bonded Winery No. 1であるBrotherhoodワイナリー(1839年創業)が所在します。

2つのA.V.A

  • Hudson River Region
  • Upper Hudson

この地域は、フレンチ・ハイブリッド品種(Vidal Blanc、Seyval Blanc、Cayuga White、Baco Noir)の開発において重要な役割を果たしてきました。

Point Summary

ここがポイント!

  • ワシントン:Columbia Valleyが州の99%のブドウを栽培
  • オレゴン:Willamette Valleyはピノ・ノワールの聖地(70%)
  • ニューヨーク:Finger Lakesが2025年ワイン・リージョン・オブ・ザ・イヤー受賞

まとめ

A.V.Aシステムは、米国ワインの品質と個性を保証する重要な仕組みです。ヨーロッパの原産地呼称と異なり、生産者に大きな自由度を与えながらも、テロワールの重要性を認識しています。

カリフォルニアでは、ナパバレーの17のサブA.V.A、ソノマの13のA.V.A、パソ・ロブレスの11のA.V.Aなど、驚くべき多様性があります。ワシントン州は広大なコロンビア・バレーとUSA Today読者投票で選ばれたヤキマ・バレーを擁し、オレゴンはピノ・ノワールの聖地ウィラメット・バレーで世界的評価を得ています。そしてニューヨークでは、2025年のワイン・リージョン・オブ・ザ・イヤーに輝いたフィンガー・レイクスや、歴史あるハドソン・バレーが独自の個性を発揮しています。

米国全体で277のA.V.Aが認定されており、それぞれが独自の気候、土壌、歴史を持っています。次回ワインを選ぶ際は、ぜひラベルのA.V.A表示に注目してみてください。それぞれの産地が持つ独特のテロワールと個性が、グラスの中に表現されているはずです。

参考文献

本記事は以下の情報源を参考にしています:

A.V.Aシステム全般

カリフォルニア

ワシントン州

オレゴン州

ニューヨーク州

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